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ひーやのショートショート - 夢消し -

前回の「落とし物」に引き続き、「消しゴム」という
お題でショートショートにチャレンジしてみました。

夢消し

 僕は夢消し。僕らだけが持つ特殊な消しゴムで人間の悪夢を消すのが仕事だ。人間には僕らの姿は見えず、存在すら気付かないため、感謝をされたことは一度も無いが、この仕事は人間にとってとても重要な意味を持っている。
 受験に失敗するという悪夢を消すことで忙しかった2月が過ぎると、一息つく間もなく春がやってくる。春は転機の季節、四季の中でも特に忙しい。例えば、新入社員が自分の希望通りの部署に配属されず、会社に馴染めないといった悪夢も増えてくる。もちろん受験生や新入社員に限らず、誰もが少なからず不安を抱えている。不安は悪夢に繋がり、悪夢は不安に繋がる。妊婦なんて不安だらけだ。特に初めての妊婦は不安でいっぱいで、僕らが夢消しを行わなければ、毎朝悪夢にうなされて目覚めることになるだろう。お腹の子は元気に産まれてきてくれるだろうか、元気な子供だったとしても、自分に子供を幸せに育てていく力があるのだろうか。子を想う母親の愛が際限ない悪夢を引き起こす。そのため、妊婦には細心の注意を払っている。
 もちろん僕らだけでは消しきれずに残ってしまう悪夢もある。人間達は増えすぎて僕たちのリソースでは手が回らなくなってきているのだ。うつ病という言葉が世間で話題になり始めた頃から人間過多、悪夢過多の状況は変らず現在も続いている。悪夢が原因でビルから飛び降りたり、電車に飛び込む人は毎日のようにいる。だけど、気に留めておいてほしい。人間が見る悪夢の80%程度は僕らが消しているのだ。人間が寝ているときに見る夢だけしか消せず、例え自殺の現場に居合わせても実際に手を差し伸べて救うことはできないが、僕には人間を存続させているという自負がある。僕らがいなかったら人間は不安で生きていけないだろう。 自殺など不幸なことが起きた時には心が痛むが、落ち込んでいる暇はないのだ。

 先ほども人助けをしたばかりだ。僕は人間が活動している日中に街へ出て気分転換がてらに散歩をすることがある。夢消しの仕事が落ち着いている日中にしかできない楽しみだ。休息中も結局、人間を観察してしまうのだけど。長い間、夢消しをやっていると悪夢を見そうな人間というのが分かってくる。外観だけではない、そういう人間は匂いで分かるのだ。
 街で見かけた君はとても素敵な女性だった。君がこちらに向かって歩いてきた。まさか僕が見えているのか、一直線に僕に向かって歩いてきた。僕は一歩も動けなかった。君はずっと僕だけを見ている。僕も君から目を離すことができない。君とすれ違った。甘くフルーティーな香りの奥にあの匂いがふわっと漂った。至近距離で見た君の横顔には涙の跡があった。瞬きすることを忘れた僕の目も涙目になっていた。
 僕は君を追いかけた。君は家に着くと、鍵をかけるのを待たずに、玄関で泣き崩れた。僕はこの時気付いた。君は涙がこぼれないように正面の一点だけを見ながら歩いていたのだと。その後も君は散々泣いた。写真立てを手に取ってはまた泣いた。写真には君といけすかない男が写っていた。そして君は泣き疲れ、ベッドに顔を埋めながら寝てしまった。
 その夢の中で君はリストカットをした。台所から包丁を取り、手首をざっくりと深いところまで切り込んだ。激しい痛みと流れ続ける血にこわくなり、君は包丁を落とした。左手からは鮮やかな赤い血が床に流れ落ち、ぼたぼたと音をたてていた。先ほどまで包丁を握っていた右手はお腹を擦り、君は泣きながら、ごめんね、ごめんねとお腹に向かって繰り返し呟いていた。鮮明な悪夢ほど現実になりやすい。やはり君を追いかけてきて良かった。僕は普段の3倍の消しカスが出るくらい長い時間を使って丁寧に君の悪夢を消した。

 その日から僕はさらに忙しくなった。君の夢を毎日監視する仕事が増えたからだ。夜だけじゃない、終日監視する。いつ君がうたた寝をするか分からないからだ。うたた寝だからといって油断はできない。夢と現実の境目がはっきりしにくいうたた寝に悪夢を見る人間も多いのだ。今の君にとっては、ちょっとした悪夢でも大事になりかねない。君とお腹の子を危険な目に遭わせるわけにはいかない。それにこれからは悪夢を消すだけではない。男女関係における希望的な夢も一つ一つ丁寧に消していく必要がある。君がこれから誰とも付き合わず、傷つかないように。
 僕がつきっきりで君の夢を消してあげるね。だから君は僕だけのものでいるんだよ。
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テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

ひーやのショートショート - ボクの左腕 -

「落とし物」というお題で人生初めて400字詰め原稿用紙5枚の
ショートショートを書いてみました。

ボクの左腕

 ボクは昨晩、左腕を落とした。

 まだ目は閉じているが、頭は動き始めていた。まずは慌てず落ち着いて闇雲に動かず、頭がフル回転するのを待った。
 左腕を落としたと言っても、事故で失ったわけではない。するっと抜けたという表現の方が合っている。なぜなら、痛みもなく、落としたことも気付かなかったのだから。
 昨晩は同僚と会社の愚痴を言い合いながらひたすら飲んでいた。高圧的な上司に対し、二人でひたすらダメ出しをしていた。他人への文句はお酒をすすませ、閉店で居酒屋を追い出される頃には、頭がぐわんぐわんと揺れて、歩くたびに足がクロスしていた。同僚と別れてからはふらふらしながら歩いている自分が面白くて、わざとピンボールのように壁とガードレールにぶつかりながら帰った。
 左腕が無いと気付いたのは自宅に戻り、水を飲もうとしたときだった。コップが取れない。目はコップを見つめていたし、意識もコップに向いていた。しかし、手が届かない。満タンの浄水ポットを持ち続けていた右腕が辛かった。
 その後は記憶が無い。無意識にベッドに倒れこみ眠ってしまったようだ。そんな状況でよく眠れたなと我ながら思ったが、酔っているだけだ。もしくは既に夢の中なのだ。目が覚めたら左腕は戻っているはずだ。という期待もあったのかもしれない。ところどころ抜けているかもしれないが、これが思い出せる範囲の昨晩の出来事だ。
 ようやく目を開き、左腕を見てみる。多少抱いていた期待は外れ、やはり左腕は無かった。痛みは無く、血も流れていなかったが、左肩がどうなっているのか、覗き込むことは恐くて流石にできなかった。
 とにかく左腕を探しに行かなければ。
 ベッドから体を起こし、重い頭のまま家を出て、昨晩帰った道を歩いた。ふらふらしていた。しかし、今日のふらつきは昨日とは違う。今日のふらつきはお酒が残っているせいと言うよりも、左腕が無いからだ。バランスが取れないのだ。ふと、落とした腕が利き腕の右腕だとしたら、どこで気付いたのだろうと考える。少なくとも玄関の鍵を開けるときには気付いただろうか。
 家から十分ほど歩いたところにある交差点から路地に入ると、前方に屈強な左腕が見えた。ボクと同じように左腕を落とした人がいたということか!驚きはしたが、自分の立場を思い出すとすぐに冷静になった。この屈強な左腕を肩にはめたらどうだろう。
 ボクはいじめられっ子だった。唯一威張れたのは双子の弟にだけだった。学校から帰ってきたボクは強かった。弟に暴力をふるい、万引きを強要していた。そうやってボクは平常を保っていた。だけど、弟はどう自分を保っていたのだろう。ボクと一卵性の弟も、やはり学校でいじめられっ子だった。
 その奥にボクの左腕が見えた。
 いや最初からぼんやりとは見えていた。見えてはいたが、屈強な腕の方に目がいったのだ。昔のコンプレックスは今も心の中にずっと潜んでいて、ことあるごとに浮かび上がってくる。しかし、大人になった今では腕力があったところでいまさらだと思いなおす。大人のいじめには力の強さ、それも左腕の強さだけでは意味が無い。上司のパワハラには対抗できない。
 屈強な左腕を横目に、奥にある腕に近寄っていく。ふと見ると、なぜか地面に付いていない掌側に泥が付いていた。誰かが拾い、逆さに置きなおしたように思えた。ボクの左腕に魅力を感じる人はいないだろう。昔も今も貧弱な左腕だ。そうなると、誰かが拾ってみたものの間違えたと気付き、戻したのかもしれない。自分と似た左腕を持つ人がいる。そう考えると、少しだけ嬉しかった。
 ボクは左腕をスッと肩に差し込み、パンパンと掌に付いた泥をはらった。やはり自分の腕は良い。左腕が戻った帰り道、ボクのふらつきは止まっていた。

 数時間後、ボクは死んだ。

 自殺した。ということになっている。左手で首を絞めたのだ。強い憎しみがあったのだろう。それは一瞬だった。右手で止める間もなく一瞬にして喉を握りつぶされた。薄れゆく意識の中、弟の顔がさっと浮かんだ。

 ボクは今日、命を落とした。

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

ひーやのショートショート

今年、ポッドキャスト番組こむぞう
こむぞう文学部が創設されました。
こむぞう文学部とはパーソナリティの一人の
大橋慶三さんを中心として、物書きのこむぞうリスナー達と
切磋琢磨して活動、作品の書籍化を目指していこうという
グループです。
作品応募前のレビュー要因として読み手も
募集していたので、慶三さんの小説が
いち早く読みたかった私もこむぞう文学部に参加したのでした。

こむぞう文学部での最初の応募は
阿刀田高の「TO-BE小説工房」でした。
阿刀田高の「TO-BE小説工房」では
毎月1つのお題が与えられ、そのお題に沿って
400字詰め原稿用紙5枚の小説を応募するものです。
これくらいのボリュームの小説をショートショートというみたいですね。
私は初めて聞く単語でしたが。

そこで、こむぞう文学部の方達が書いた
小説を読んだわけですよ。
そしたら、すっごく面白いの!
お題は一つなんだけど、みんなそれぞれ違う角度、
切り口でショートショートを書いていて、
日頃から書いている人は引き出しが凄いなと感動しましたよ。

そしたら、僕も書いてみたいなという気持ちがムクムクと。
そういえば大学時代、人生で一番本を読んでいた時代、
エッセイから小説から哲学書から純文学まで
読んでいた時代、特にシドニィ・シェルダンが好きで
小説を書いてみたいなと思っていたのです。
その時は相関図を作って、頭の中では
エンディングまで話が作れていたのですが、
いざ文字にして書いてみると、とても時間がかかり
途中で挫折してしまったのです。
でも、阿刀田高の「TO-BE小説工房は、
400字詰め原稿用紙5枚!
これならいけるかも!?と書いてみたわけです。

書いたお題は、「落とし物」と「消しゴム」の2本。
せっかくなので次回からのブログとして残しておこうと思います。

ボクの左腕 (お題:落とし物)
夢消し (お題:消しゴム)

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